負の数×負の数

なぜ「負の数×負の数=正の数」なのかという質問をしばしば受ける.
そのとき「そのように定めると効用が多いから」と答える.
負の数を用いると,何かが増える(あるいは超過している)状態を表すのと同じ表現(式)によって, 減る(あるいは不足している)状態をもまとめて表すことができるという効用がある.
「負×負=正」と定めることによって,まとめて表すことができる状態が増えるのである.
「速度×時間=距離」もその1つであるが,これについては多く語られているので, ここでは,「長さ×長さ=面積」について考える.

長さの符号をつぎのように定める.

横の長さにについて
右(西から東)に向かって測った長さを正
左(東から西)に向かって測った長さを負とする.
縦の長さについて
上(南から北)に向かって測った長さを正
下(北から南)に向かって測った長さを負とする.
負の数の積の定義によると,面積の符号は次のようになる.
横の長さ× 縦の長さ面積
正(+)× 正(+)正(+)
正(+)× 負(−)負(−)
負(−)× 正(+)負(−)
負(−)× 負(−)正(+)
 
 
 

長方形の面積

横(東西)が4m,縦(南北)が3mの長方形の土地の横または縦を増やしたり減らしたりする.
減らす場合も増やす場合も新しい長方形の面積が4つの長方形の和という同じ表現で表すことができることを確認する.

横を1m増やし縦も1m増やした場合

4×3+1×3+4×1+1×1
  =12+3+4+1

横を1m減らして縦を1m増やした場合

新しい長方形の面積は,やはり4つの長方形の面積ので表される.
4×3+(−1)×3+4×1+(−1)×1
  =12+(−3)+4+(−1)

横を1m減らして縦も1m減らした場合

新しい長方形の面積は,やはり4つの長方形の面積ので表される.
4×3+(−1)×3+4×(−1)+(−1)×(−1)
  =12+(−3)+(−4)+(+1)

面積の符号にはどんな意味があるか

横の長さの場合,正は東向きを表し負は西向きを表す. 時間の場合,正は未来を表し負は過去を表す. このように,負は正の逆向きを表している.
面積の場合,正と負では何が逆向きになっているのだろうか.

原点がOのxy平面上の図形の(符号を考えた)面積Sについていくつかの場合を調べてみよう.
一般に点Pの座標を (xP,yP) で表し, Pからx軸,y軸に下ろした垂線の足をそれぞれPx,Pyで表すことにする.

長方形PPyOPxの場合

S=xPP と定める.
|S|は普通の(符号を考えない)面積と一致する.
S>0 になるのは
Pが第1象限にあるとき
Pが第3象限にあるとき
S<0 になるのは
Pが第2象限にあるとき
Pが第4象限にあるとき

長方形PQQxxの場合(ただし yP=yQ

S=(xP−xQ)yP と定める.
|S|は普通の(符号を考えない)面積と一致する.
S>0 になるのは
P,Qがx軸より上にあって,PがQより右にあるとき
P,Qがx軸より下にあって,PがQより左にあるとき
S<0 になるのは
P,Qがx軸より上にあって,PがQより左にあるとき
P,Qがx軸より下にあって,PがQより右にあるとき

台形PQQxxの場合(ただし yP,yQ は同符号)

S=(xP−xQ)(yP+yQ)/2 と定める.
|S|は普通の(符号を考えない)面積と一致する.
S>0 になるのは
P,Qがx軸より上にあって,PがQより右にあるとき
P,Qがx軸より下にあって,PがQより左にあるとき
S<0 になるのは
P,Qがx軸より上にあって,PがQより左にあるとき
P,Qがx軸より下にあって,PがQより右にあるとき
言い換えると
S>0 になるのは
PQQxxが反時計回りにあるとき
S<0 になるのは
PQQxxが時計回りにあるとき

図形PQQxxの場合(ただし yP,yQ は異符号)

この場合は台形ではないが,台形の場合と同じ式で
S=(xP−xQ)(yP+yQ)/2 と定める.
Sは2つの三角形の(符号を考えない)面積の差 +- になる.
+
PQQxxとたどったとき反時計回りに囲まれる三角形の面積
-
PQQxxとたどったとき時計回りに囲まれる三角形の面積

三角形PQRの場合

3つの台形PQQxx,QRRxx,RPPxx の(符号つき)面積の和と考えればよい.
S=(xP−xQ)(yP+yQ)/2
 +(xQ−xR)(yQ+yR)/2
 +(xR−xP)(yR+yP)/2 と定める.
|S|は普通の面積と一致する.
S>0 になるのは
P,Q,Rが反時計回りにあるとき
S<0 になるのは
P,Q,Rが時計回りにあるとき

一般の多角形 P123……Pn の場合

n個の台形の(符号つき)面積の和と考えればよい.
S=(x1−x2)(y1+y2)/2
 +(x2−x3)(y2+y3)/2
 +……
 +(xn−x1)(yn+y1)/2 と定める.
|S|は普通の面積と一致する.
S>0 になるのは
123……Pn が反時計回りにあるとき
S<0 になるのは
123……Pn が時計回りにあるとき
このように,面積は外周をたどる向きによって正負を定めることにより効用が高まる.