数学T 三角比

三角比を学ぶ意義

天下り的に定義と公式を教えるのではなく, 三角比の概念が考え出される過程を説明する.
また,わかりやすい特殊な場合から始めて,徐々に一般的な場合に拡張していく,という 数学の手法を理解させる.
もちろん,この説明も一方的に話すのではなく,随時生徒の発言を求める.

相似(形が同じ)と合同(形も大きさも同じ)の概念を思い出す.

A判の紙とB判の紙と名刺を配る. それらは相似か?
それぞれを半分にした長方形と,元の長方形は相似か?
答を確かめるにはどうしたらよいか?
それぞれを対角線で切った三角形を重ねて比べ,3つの角が一致すれば相似で, 元の長方形も相似である. 三角形の角の和は180゜であるから,2つの書くが一致すればよく, 今の問題では,1つの角が直角であるから,最小の角を重ねて調べるだけでわかる.
四角形の場合,4つの角がそれぞれ等しくても相似とは限らないが, 三角形の場合,2つの角がそれぞれ等しければ相似である.

二つの三角形△ABC と△A'B'C' が相似であること,および合同であることの条件を思い出す.

二角相似定理
A=A',B=B' ならば相似である.
A,B が決まれば C と a:b:c が決まる.
二角挟辺合同定理
A=A',B=B',c=c' ならば合同である.
A,B と c が決まれば C と a,b が決まる.
二辺挟角合同定理
A=A',b=b',c=c' ならば合同である.
a,b と C が決まれば c と A,B が決まる.
三辺合同定理
a=a',b=b',c=c' ならば合同である.
a,b,c が決まれば A,B,C が決まる.

このことから,自ずと次の問題が思い浮かぶ.

問題
(1) 角 A,B が与えられたとき,残りの角 C の求め方を知りたい.
(2) 角 A,B が与えられたとき,三辺の比 a:b:c の表し方を知りたい.
(3) 角 A,B と辺 c が与えられたとき,他の辺 a,b の求め方を知りたい.
(4) 辺 a,b と角 C が与えられたとき,残りの辺 c の求め方を知りたい.
(5) 辺 a,b と角 C が与えられたとき,他の角 A,B の求め方を知りたい.
(6) 辺 a,b,c が与えられたとき,角 A,B,C の求め方を知りたい.
答え
(1) A,B から C を求める式がある.
   C=180゜-A-B
(2) (1)より,A,B,C が与えられたとしてよい.
  これについて後で考える.………@
(3) (2)の式があれば,c から a,b を求められる.
(4) これについても後で考える. ……A
(5) (4)と(6)がわかればよい.
(6) これについても後で考える. ……B

@,A,Bについて考える.

初めからすべての三角形を対象に考えるのではなく, わりやすい三角形から考えていく.
すなわち,直角三角形→鋭角三角形→鈍角三角形 の順に考えていく.

直角三角形の場合

角 C=90゜とする.
角 A を決めると角 B と3辺の比 a:b:c が決まる. すなわち,a/c, b/c, a/b が決まる.
この値をそれぞれ A の正弦(sine),余弦(cosine),正接(tangent)といい, sin A,cos A,tan A で表す.
  sin A = a/c = (A の)対辺/斜辺
  cos A = b/c = (A の)隣辺/斜辺
  tan A = a/b = (A の)対辺/(A の)隣辺
である.

角 B については,
  sin B = (B の)対辺/斜辺 = b/c
  cos B = (B の)隣辺/斜辺 = a/c
  tan B = (B の)対辺/(B の)隣辺 = b/a
となる. これを見ると,
  cos A = sin B
  cos B = sin A
となっている.
A と B のように和が90゜になる2つの角を互いに余角(complementary angle)という.
余弦(cosine)は余角(co-angle)の正弦(sine)(cos A = sin(90゜-A))という意味である.
同じ考え方で,余角の正接を余接(cotangent)(cot A = tan(90゜-A))という.
@(C=90゜の場合)について
  a : b : c = c sin A : c sin B : c = sin A : sin B : 1
sin 90゜ = 1  (したがって cos 0゜= 1)と定める
  a : b : c = sin A : sin B : sin C

A(C=90゜の場合)について
 □ADKJ = AD・AJ = c・b cos A = b・c cos A = b2
 □BEKJ = BE・BJ = c・a cos B = a・c cos B = a2
ゆえに,
  c2 = a2 + b2
  a2 = c2 - b2
  b2 = c2 - a2
このように,2辺から他の辺を求めることができる. しかし,c を求める式と a,b を求める式の形が異なる. これは,2辺だけを用いているからである. 間の角を用いると同じ形の式で表すことができるが, それは鋭角三角形の場合に含めて考えることにする.

B(C=90゜の場合)について
sin A または cos A の値がわかったら,角 A がわかったと考える.
  sin A = a/c ,  sin B = b/c ,  C = 90゜

鋭角三角形の場合

@(鋭角三角形の場合)について
CA sin A = CJ = CB sin B より
  a : b = sin A : sin B
同様に
  b : c = sin B : sin C
これより,次の正弦定理が得られる.
  a : b : c = sin A : sin B : sin C

A(鋭角三角形の場合)について
  ADKJ = AD・AJ = cb cos A = bc cos A = AI・AN = AION
同様に
  BEKJ = BFML = ca cos B
  CHON = CGML = ab cos C
したがって,たとえば
  □ABED = □ACHI - CHON + □BCGF - CGML
これから,次の余弦定理が得られる.
  c2 = a2 + b2 - 2ab cos C
  a2 = b2 + c2 - 2bc cos A
  b2 = c2 + a2 - 2ca cos B

直角三角形のA(C=90゜の場合)は余弦定理の特殊な場合である.
a を求める式は cos A = b/c という特殊な場合である.
b を求める式は cos B = a/c という特殊な場合である.
cos 90゜= 0  (したがって sin 0゜= 0)と定める
c を求める式は cos C = 0 という特殊な場合である.

B(鋭角三角形の場合)について
余弦定理の式を変形すればよい.
  cos A = (b2 + c2 - a2)/(2bc)
  cos B = (c2 + a2 - b2)/(2ca)
  cos C = (a2 + b2 - c2)/(2ab)

鈍角三角形の場合

@(C が鈍角の場合)について
AB sin B = AL = AC sin (180゜-C) より
   b : c = sin B : sin(180゜-C)
鈍角 C について sin C = sin(180゜-C) と定める
正弦定理が鈍角三角形でも成り立つ.
  a : b : c = sin A : sin B : sin C

A(C が鈍角の場合)について
鋭角の場合と違って
  CHON = CH・CN = b a cos(180゜-C)
  CGML = CG・CL = a b cos(180゜-C)
  □ABED = □ACHI + CHON + □BCGF + CGML
ゆえに
  c2 = a2 + b2 + 2ab cos(180゜-C)
鈍角 C について cos C = - cos(180゜-C) と定める
余弦定理が鈍角三角形でも成り立つ.
  c2 = a2 + b2 - 2ab cos C
  a2 = b2 + c2 - 2bc cos A
  b2 = c2 + a2 - 2ca cos B

B(鈍角三角形の場合)について
やはり余弦定理の式を使えばよい.
  cos A = (b2 + c2 - a2)/(2bc)
  cos B = (c2 + a2 - b2)/(2ca)
  cos C = (a2 + b2 - c2)/(2ab)